人生を変えてくれたパン屋さんその3の続き

今回は私がどういういきさつでパン屋になったかの最終回です。
前回の記事で悲願のトラン・ブルーの面接が決まったところまで書きました。
人生を変えてくれたパン屋さんその3の続き
(写真はトラン・ブルーHPより拝借しました。)


一世一代のこのチャンスを絶対にものにしなければなりません。
ですが面接のときに自分がうまくしゃべれるか自信がありませんでした。

パン作りの腕前はパン教室レベル、製パンの知識も乏しく、立ち仕事も大学のバイト以来というありあさま。
私がトラン・ブルーにとって有用な人材ですと売り込める要素は全くありません。
あるのはトラン・ブルーで働きたいという気持ちだけです。

このチャンスを何とかしたいという思いで取った行動が“手紙を書く”ということでした。
面接当日に緊張して話せないかもしれない、だったらこの思いのたけを手紙に託して送れば気持ちが伝わるかもしれないと考えたのです。

トラン・ブルーのパンを食べた時にあまりのおいしさに家内と取り合いになったこと、トラン・ブルーの接客のすばらしさに感動したこと、なぜ脱サラしてパン屋になりたいと思ったのかなど、面接のときにお話ししたい内容をすべて書きました。

まさにラブレターと言ってもいいかもしれません。
トラン・ブルーが本命であり、第二候補はありませんでした。
トラン・ブルーにフラれたらもうこれ以上のパン屋に巡り合えない可能性もあります。
もしスタッフを募集していなくとも、募集するまで待つ覚悟も私の中で出来ていました。

そして面接当日がやってきました。
朝起きてから面接までずっと緊張していたことを覚えています。
そしていよいよ面接となりましたが、ここで意外な展開が待ち受けていたのです。

社長にご挨拶をして面接が始まりましたが、社長のほうからトラン・ブルーはどんなパン屋なのかの説明があり、私がどれぐらいの期間働けるのかなど聞かれました。
まるで採用前提のような話しぶりです。
こちらは土下座してでもお願いするつもりでいただけに、「あれ、なに、どういうこと?」とちょっと混乱気味です。

そしてひとしきり話が終わると、厨房へと案内してくれました。
そして私の耳を疑うようなことを言い始めたのです。
「彼を採用しようと思っているけど、みんなどう思う?」と。

もはや私の頭の中はパニック状態です。
そして当然ながら厨房内にも困惑の空気が流れ沈黙が続きます。
時間にしたら数秒間かもしれませんが、私にはとてつもなく長い時間に感じました。

するとスタッフのSさんが、「社長がいいならいいですよ。」と言ってくれたのです。
この瞬間、私がトラン・ブルーで働けることが決まりました。
うれしさと安堵とで崩れ落ちそうでした。

後から社長に聞いたのですが、事前に送った手紙が決め手だったそうです。
またこれも後から先輩に聞いた話ですが、何人か入社の順番待ちをしていたのにもかかわらず、私が入社することになって驚いたとのことです。
自分の起こした行動で自分に“運”を引き寄せた、そんな気がしました。

もしトラン・ブルーに入れなかったら、今の私はどうなっていたでしょうか。
他のパン屋に入れたかどうかわかりませんし、もし入れたにしてもトラン・ブルーで働きたかったという未練を引きずっていたかもしれません。
そもそもパン屋になれたかも怪しいところです。

今私は当時の社長と同じぐらいの年齢になりました。
もしカセルに当時の私のような34歳の未経験者が入社希望を出して来たらどうでしょうか、しかも何人かの入社候補がいるとしたら、私はあえて選ぶことはできないかもしれません。
トラン・ブルーにとってメリットのない私を採用してくれてチャンスを与えてくださったことを大変ありがたく思います。
改めて社長の懐の深さを感じます。
感謝です。

前回の記事の終わりに「ある秘策を思いついた。」と書きましたが訂正します。
手紙を書いたことは突拍子もない行動だったかもしれませんが、自分の中では秘策でもなんでもなく、わらにもすがる思いで取った自然な行動でした。
「トラン・ブルーに入りたい!」と強く願う気持ちがそうさせたのです。
もしかしたらこの気持ちは人生のなかで一番強い感情だったかもしれません。

バイクの設計をしたかった夢が破れて脱サラしました。
もし「バイクの設計をしたい!」とこの時と同じくらいに強く願っていたなら、もしかしたら違った結果になっていたかもしれません。
ですが、このときは強い想い以上にあきらめが先に来てしまったのですから仕方がありません。

これを機に“信念”を強く持つことが自分自身の未来を変えることが出来るということを学びました。
今も逆境や困難に突き当たったときは自分の“信念”に従い舵を取っています。
“信念”を持つことの大切さも教えていただきました。
感謝です。

インスタグラムはこちら。
https://www.instagram.com/boulangerie_kaseru/

(社長は今も大事に私の手紙を取ってくれているそうです。うれしくもあり恥ずかしくもあるシェフです。(笑))





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