カセルの働き方の仕組み

カセルの働き方の仕組み

先日、『カセルの取り組みについて』の記事を書かせていただきましたが、今回はその続きです。





まず、カセルのスタッフはどんな気持ちで働いているのでしょうか。
私がパン屋で働いていた時もそうでしたが、“パン作りのスキルを早く身につけたい”というその一心です。
その気持ちに応えてあげることが、カセルの仕組みの根源なのです。

仕組みを具体的に言いますと、三年間でパン作りのスキルをすべて身につけることができるということです。
「残念ながらカセルでは終身雇用することができませんが、その代わりに三年間働いてもらえれば、きっちりパン作りのスキルをマスターすることができますよ。」ということです。
そのあとめでたくカセルを“卒業”となります。

「え、パン屋を辞めずに済む仕組みがカセルにはあるといっておきながら、三年で辞めさせるの?」という疑問が湧くと思います。

ですが、パン屋に就職しても三年間続かないのが現状なのです。
仮に三年続いたとしても、三年間だけではスキルを身につけることができず、十年たってもまだ全部の仕事を経験させてもらえないというケースもままある話です。

三年間でスキルを身につけることができるという仕組みこそが、一年後、二年後、三年後のリアルな自分をイメージでき、モチベーションアップにつながるのです。
一年後の自分が一つ上の先輩、二年後の自分が二つ上の先輩になるわけですから、先輩の背中が目標になります。
もしその先輩が卒業できなかったら自分の卒業もないわけですから、モチベーションが低下し、途中で挫折してしまうことになるのです。
一人ずつ確実に育て卒業させてあげるサイクルを回すことが、この仕組みの最大のポイントです。

じゃ、なぜ三年間なの?ということですが、私以外のポジションが3つあり、それぞれのポジションを一年かけて覚えていくため、三年かかるということです。

一つのポジションは一年間はやるべきだと考えています。
一年のあいだには、季節商品があったり、時期によって作る量が変わったり、気温が変わったりします。
そうすると、仕上げの内容が変わりますし、窯の温度を調整する必要もありますし、生地の捏ね上げ温度を変えたりしないといけません。
やはり、技術習得のためには一つのポジションで一年間はやるべきであり、やらせてあげるべきです。

早くスキルを覚えて独立したいスタッフがモチベーションを保てる年数と、私が最短でパン屋のスキルを教えられる年数が“三年”なのです。
スタッフと私の双方が、早くもなく遅くもないと理解しあえる年数だと思っています。

次に、「じゃ、シェフのポジションは覚えることができないの?」という疑問が湧くと思います。

結論から言いますと、三年の間で私の仕事をすることはありません。
ですが、私の仕事以外はすべて覚えることができ、その中には、仕込み、成形、焼成、仕上げ、デニッシュの織り込み、接客、商品開発といったパン職人になるために必要な要素はすべて盛り込まれています。
私の仕事はそれらの一部分であり、同類の仕事です。
私がやっている仕事でやれないのは、経理とブログでの情報発信、買い出しや動植物の世話などの雑務ぐらいでしょうか。
もちろん、卒業後になってしまいますが、私の仕事を見せて教えることはできます。

「せっかく育てたスタッフが辞めてしまって大変・・・。」という話をよく耳にしますが、これはまったくもってナンセンスです。
“育ったから”辞めるのです。
辞めてもらって困るのであれば、終身雇用できるぐらいの給料をあげるべきです。
それを“修行”と称して過酷な労働を課せておきながら、ちゃんと修業させてあげられていないパン屋さんがまだまだ多いと思います。
労働条件も悪く、スキルも身につかないのでは、誰が働くというのでしょうか。
これで辞められて困るというのは虫が良すぎます。

カセルでは“修行”という言葉は使いません。
カセルは精神を鍛錬する場ではないからです。
スタッフがパン作りのスキルを身につける場であり、スタッフが成長してくれるからこそカセルも成長していけるのです。
ですからカセルで行っているのは“修業”です。
“修業”があるということは“卒業”もあるということなのです。

ありがたいことに、カセルにこの仕組みを取り入れてから、スタッフが途中で挫折することはなくなりました。
スタッフの表情も生き生きしていると感じます。
感謝です。

今回は、カセルでの働き方について書かせていただきましたが、もう一つの問題として労働条件があります。
これについては、またこんど書きたいと思います。

(浜名湖一周したのに筋肉痛がないシェフです。(明日来るのか!?))

注記
今回も含め一連の記事は、個人店のパン屋全般のことであり、特定のお店を指すわけではありません。
もちろん、カセル以外にもスキルを磨くことのできるお店は多数あると思います。
実際に私が働いていたトラン・ブルーは、四年弱で卒業させてもらいました。
このように、きちんと製パン技術を学べる店が増えることが、パン屋の未来を明るくするとの想いで書いています。



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